午後の遺言状』(新藤兼人)★★

『母情』(清水宏)★★★★

『何故彼女等はそうなったか』(清水宏)★★★★


 
『母情』における清川虹子のコンパクトミラーに写る顔は余所行きの“女の顔”として表現されているが、やがてラストに向かってそれは“母の顔”として変貌を遂げるだろう。清水の演出は、その一点に向かって用意周到に賭けられる。



『何故彼女等はそうなったか』における香川京子の美しさは、際立っている。生徒である中村雅子もまたその魅力に惹かれ、同じ布団に入って同性愛的な場面を演じさえするのだが、この場面は小津の『晩秋』における笠と原節子の宿で枕を並べる有名なシーンを想起させ、観るものを動揺させる。ともあれ、その爽やかで一点の曇りもない笑顔は、少女たちのお面によって象徴された影を帯びた顔と見事に対比されている。
 やがて物語は進み、池内淳子の境遇によって、結局世間の不寛容と理不尽さを強調した形で物語りは締めくくられているが、無論残された者たちは重い足を引きずりながらも歩き続けねばならないのである。向かう先には、香川の笑顔で象徴された清水的な楽園(=学園)が待っている。しかし、そこはあくまで社会と隔離された牢獄に似た場所であって、もちろんユートピアではない。
 ここでの清水は彼女たちの未来を一旦保留にしているが、香川の重いトーンのナレーションによってにせよ、彼女等を鼓舞し続けるのである。追い立てる先は、冒頭のショットに現れる隔絶感を想起させもする城の麓にある、学園であるのだが。